獣恋道-恋はいつでも獣道-
「ちょっとトイレ行ってくる」
あたしは立ち上がって、店の奥へと向かった。
女子トイレと男子トイレの間の壁に寄りかかる人の姿。
「え、いじくん…」
バーテンの制服に身を包んだ彼は、下を向いたまま動かない。
それすらも絵になる。
あたしは逃げたいと思ってるのに、なぜか目の前にいる彼から目が話せない。
すると、バッと彼が顔を上げた。
「千雪さん、いたの」
なんだか声がやけに冷たい。
今までみたいな軽い感じもない。
「あの、ここで働いてたんだね…」
「ん」
「ん」って、こいつほんとに英志くん!?
いつもと違う彼に、戸惑いを隠せない。