使者の黙示録
「出してくれ」


その声に、運転手はブレーキをふんでいた足をアクセルに移す。


「仕事は順調かね、マザー」

「はい、おかげさまで」


男の言う仕事とは、もちろん裏社会での闇の仕事だ。

死に直結する取引を、何度も成し遂げてきた彼は

そういう人間だけが醸(かも)し出す危険な雰囲気を、常にたずさえている。


「こちらも順調だよ」


彼の視線から、人を人とも思わない冷徹さが

サングラスごしに、マザー・アミコに突き刺さる。


彼に限らず、教団の顧客たちは皆、彼と同じような匂いを放っている。

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