月の骨


 僕は、もうまともな人間ではないだろう。


 復讐のために無差別テロを企て、実行しようとした。今もその機会を狙って、望遠鏡を覗き、斎藤を見張っている。


 いつだったか、望遠鏡の向こうで、庭に忍び込んだ子どもが犬に咬まれた。


 激しく動き回り、子どもを引きずり回す犬の様子を、僕はただ見ていた。


 ただ見ていたのだ。


 助けに行くには、距離があり過ぎた。それでも、助けを呼ぶくらいはできた。警察に通報することもできた。


 でも、僕はしなかった。


 僕がいることが少しでも露見する恐れがあることは、避けるべきだと思った。



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