- π PI Ⅱ -【BL】
周が行ってしまって、一人になると急に寒気を覚えて俺は周のコートの襟を立たせた。
半楕円形の会場に、ずらりと長い椅子が並んでいて、客がまばらに座っている。
2、3列前のカップルはくっついて互いに寄りかかり楽しそうにおしゃべりをしていた。
いいな…
あんな風に堂々とイチャイチャできて…
なんて考えてしまって慌てて頭を振る。
周は、周りを考えずにイチャイチャすることに抵抗はないだろうけど、俺はやっぱり普通のカップルがするようなことは……無理。
ちょっと襟を立たせて首をすぼめると、周の香りが心地よく香ってきた。
あんな風には―――無理だけど、こうすると周に抱きしめられているみたいだ。
すぐ近くにあいつを感じて、あいつの体温まで伝わってきそう。
人前で手を繋がなくても、抱き合わなくても、
いつでも周を感じられるんだ。
それって結構幸せなことじゃない??
なんてちょっと頬をほころばせていると、
「ここ、いいかしら?」
と頭上から声が聞こえてきて、俺は目を開いた。
この声―――…それにこの香り―――……
№5
「刹那さん…」
俺が顔を上げると、刹那さんはにっこり。
「こんなところに思いがけずいいオトコが居ると思ったら―――
ヒロだったの」
出逢ったばかりの頃の、妖艶な微笑みを浮かべて、刹那さんは俺の隣に腰掛けた。