- π PI Ⅱ -【BL】
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陣内が捕まって、それから約一ヶ月後のある晴れた日。
俺は蜘蛛女に呼び出されて、警視庁の近くにある古びたビルの屋上に来ていた。
本来ならあの蜘蛛女の言いなりになんてならないが、今日は俺はある決意を以ってあいつに会うことにした。
その決意とは。
あの毒女に「あたしは金輪際ヒロに近づきません」と血判書を書かせるためだ!
あの蜘蛛女、最近俺の前ではなりを潜めていたが、ちょこちょこヒロに電話を掛けてきては「一緒に行きましょうよ~」なんて誘っているらしい。
冗談じゃねぇ!!
性懲りもなくヒロの周りをウロチョロしやがって!!
蜘蛛退治だっ!
と言うわけで、鼻息荒く登場した俺に蜘蛛女は楽しそうに笑った。
「そんなに怒らないでよ。今日はお別れを言いにきたんだから」
「お別れ?」
俺は目を細めて、方眉を吊り上げた。
「お・前・が!!何度そう言って“お別れ”を告げて、何度また俺の前に現れたと思っている!!」
俺がびしっと指差すと、蜘蛛女は「おほほほ」と高らかに笑う。
ホントに。俺は何でこんなヤツと一度でも結婚してしまったのだろう。
ビルの屋上を吹き抜ける風が強く吹いて、こいつが纏う№5の香りが漂ってきた。
昔とちっとも変わらずに―――やはり美しい女だ。
ただ…昔はもっと冷たくて、ひたすらに謎めいていた。何もかも捨てたような顔をして、そして何かをいつも探しているような目をしていた。
この十年間で随分と変わったな。