- π PI Ⅱ -【BL】
俺は渾身の力を込めて、周を押しのけると繋がっていた部分が離れていった。
すぐ近くに感じていた周の香りも遠ざかっていく。
「ヒロ?どうしたんだ」
周が困ったように俺を見て、俺はその顔に冷めた視線で睨み返した。
「萎えた」と一言言い、近くに落ちていたズボンを履く。
「どうしたんだよ」と周が困惑の表情を浮かべて俺の腕を掴んだ。
「離せよ」俺はその腕を乱暴に振り払い、無言でワイシャツを羽織った。
水族館デートを楽しみにしてた。
キャンセルになったときは、仕事だからしょうがないと思った。
陣内がこの部屋に入ったことだって、仕事だから―――と割り切った。
だけど
―――やっと会えたって言うのに、やっと二人だけの時間だって言うのに……
俺は唇を噛みながら、無言でネクタイと上着を掴んだ。
「ヒロ?どうするんだ?」
―――ほんの少しだけでいい。ほんの数分だけでも俺だけを見てほしかった。
俺は転がった鞄も拾い上げて、
呆然としている周に、
「実家に帰らせていただきます」
と言い放った。