きみ、ふわり。


 彼女は再び目を伏せ、ほんの少し俯いた。

 俺の足元を見詰めているように見える。

 俺の上靴、ちょっと汚ねぇかな。
 これのまま中庭とか行ったりしているし。


「鏑木先輩、カッコいいからです」

 そう答えた彼女の顔は、有り得ない程に紅潮している。
 未だかつて、ここまで赤く染まった顔を俺は見たことがない。


 吃驚し過ぎて、次の言葉を見付けられずにいると、

「カッチョイイ鏑木先輩、
 抱いてやれよ」

 面白がるように煽る冷やかしの声が脇から飛んだ。


 そいつ――栗重と同じく二年から同じクラスの田所悠斗(タドコロ ユウト)に、『てめぇは黙ってろ』の意を込めた拳を腹にブチ込んだ。


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