きみ、ふわり。


「はい、知ってます」

 言って彼女は笑って見せた。
 けれど、その顔がとてつもなく引きつっているように映る。

 不安は拭いきれなかったけど、それ以上に俺は、目の前の彼女を猛烈に抱きたかった。


 まぁいいや。
 もし、万が一面倒なことになっても、『俺、彼女いらねぇってちゃんと言ったよね?』とか何とか言って逃げれば。

 騙す訳じゃないし。



「じゃあ、行こっか?」

 言って、馴れ馴れしく彼女の肩を抱き寄せて歩き出そうとすると、

「え? 行くってどこへ?」

 不安気に見上げて聞き返す彼女に、「サボればいいじゃん。始業式なんか」などと、まるで愛を囁くような甘い声音で言う俺。


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