きみ、ふわり。


 本性剥き出しの俺に、けれど紗恵は少しも怯むことなく、

「鏑木先輩のこと好きな子たち、みんなそう言ってます。
 一人二人じゃないですよ。
 全員殺しますか?」

 と言い返して来た。

 その強さは一体どこから来るのか。


「ごめん、本気じゃない」

「わかってます」

 言って紗恵はふわりと微笑む。


 叶わない。
 恋する乙女は強い、もしかしたら最強なんじゃないだろうか。


「紗恵が望むなら……
 『紗恵だけの瀬那くん』になってもいい」

 言いながら四つ這いになって、紗恵の顔に俺のそれを近付ける。

 そっと唇を重ねれば紗恵は静かに瞼を落とし、堪えていたものが目の端から押し出されるように零れて頬を伝った。


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