きみ、ふわり。


「先輩……
 そうじゃないです、誤解です」

 俺の腕の中の紗恵が小さく呟いた。

 深く俯いてしまっていて顔が見えない。
 どんな表情をしているかわからないから、せめて肌の感触だけでも知りたくて頬を寄せてみたらとても温かかった。


 柑橘系の爽やかな香りが心地よくて癒される。
 シャンプー何使ってんのかな、とか思ったり。



「誤解してんのはお前だろ?」

 紗恵と言い合いなんかしたくないから、穏やかに言い返した。


「先輩のこと、クールな人だと思ってました。
 クールでカッコいい先輩にずっと憧れていました。
 でも、そうじゃない先輩を知って、益々好きになりました。
 好きになり過ぎて苦しいです。
 ただ、抱いてくれたら良かったのに。
 こんな想いしなくて済んだのに」

 微かに震えながら一生懸命言葉を紡ぐ紗恵の声は本当に苦しそうで、こっちまで胸に押し潰されるような痛みを覚えた。


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