みつめていたい【短編】
「あ、やっと起きた」

まだぼんやりとした視界に映ったのは、朝の電車の彼だった。

私の目の前に、少し前かがみの姿勢で立っている。


「よう」

「……おは、よう」

「おはようはいいんだけどさ、降りなくていいの?」

彼は、自分の背後で開いている扉を指差した。


私は、彼の指差す方向に視線を向けると、扉の外に広がる見慣れた景色にはっとした。


もやのかかった頭がようやくクリアになり、自分が今、帰りの電車の中にいることを思い出した。


「ここ、どこ?」

「T公園」

「やっぱり!降りないと……!」
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