みつめていたい【短編】
――結局、彼は終点のN駅まで一度も目を覚まさなかった。


私は朝と同じ要領で、N駅に着く直前に彼を揺り起こした。


「えっ、もうN……?うっわ、わりー…。あんたのこと起こした意味ねーじゃん、俺」

と、しきりに恐縮する彼の様子が面白かった。


こんな表情もするんだなぁ、と、新たな発見ができて嬉しくなったり。


「あの時起こしてもらわなかったら、私、寝過ごしてここまで来てたと思うんだ。

だからいいの。急ぐ用事もないから気にしないで」

と言って私が笑うと、彼も笑った。


「じゃあ、気にしないことにする」

「うん」


「あのさ……」

彼が何か言いかけて、急に黙り込んだ。
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