みつめていたい【短編】
電車が地下に潜り、車内がすうっと薄暗くなった。

窓一面に灰色のコンクリートの壁が現れ、太陽の光と窓に映る景色を遮断すると、車内アナウンスが次の停車駅を告げた。


私の朝の至福の時に終了を告げる合図だ。


私はほっとため息をつき、目の前で眠る彼の大きな靴のつま先を、自分の靴のつま先でトントンとノックした。


熟睡していた彼が、重そうなまぶたをゆっくりと持ち上げた。

そして目の前にいる私を確認すると、くしゃくしゃの笑顔になった。

その寝起きの表情があまりにもかわいくて、自然と私の表情もほころぶ。


だけど、ここで油断してはいけない。
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