みつめていたい【短編】
お互い黙ったまま十分ほど歩いた後、区が管理する大きな公園に到着した。


ここには今年の春、あっちゃんとスズとお花見をしに来た。

春になると、遊歩道の桜並木がとても綺麗に咲き乱れる。


すっかり葉の落ちた桜の木は、裸の枝がむき出しになっていて、少し寒そうに見える。


彼は公園のゲートをくぐると、ゆっくりと遊歩道を歩きはじめた。

一歩歩くごとに冷たい空気が頬を撫で、足元で乾燥した落ち葉の擦れる音がした。


彼は相変わらず黙ったままで、何も言わない。

私たちは赤く染まった落ち葉の絨毯の上を、黙々と歩いた。


しばらく歩いているうちに、私の動揺していた頭の中が、少しずつ落ち着きを取り戻しはじめた。


そのまま遊歩道を二周し、三周目に入った。

私は足元の赤ばかりを見ていた顔を上げ、周囲の景色や空の青を見ながら歩いた。


四周目にさしかかったところで、私は思い切って足を止めた。

前を歩く彼も立ち止まった。


私は勇気を出して彼の背中に話しかけた。
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