スピカ
 あ、と声を上げると、何か思い出したようにお母さんはエプロンを外し始めた。

「朝ご飯出来てるから、食べたらお皿下げといてちょうだい」

「分かった。どっか行くの?」

「回覧板よ」と全部言い切る前に、お母さんはリビングの扉を閉めてしまった。
テーブルには、食パンとココアが置いてある。くそぅ、手抜きだ。いつもなら、スクランブルエッグとサラダなのに。

ふと視線をリビングへ移動させ、不納得だけれども、原因が分かってしまった。なるほど、楸さんのせいか。

何か、むかつくんですけど。

ボサボサの頭を掻きむしり、渋々ながら朝ご飯に手を付ける。
ワイドショーと2人の話し声が聞こえてくる。「てっちゃんからは何貰ったの?」とか「今日は遊ばないの?」とか。

「雅ちゃんは?」

わざと目を合わせない。合わせなくとも、興味津々の顔を向けられているのが分かるからだ。

「何貰ったの?」

やっぱり。話を振ってくるだろうと思ったんだ。うんざりする。

「テディベア」

「それは俺のでしょうが」

嘘は吐いていないでしょうが。
聞こえていないフリをしたものの、楸さんは標的をあたしに変えてしまったらしく、口を尖らせて寄って来る。
しまった、余計な事言っちゃったかな。

「本当は何貰ったの?」

「ああ、もううるさい。楸さんには関係ないでしょ」

「教えてよ」

しつこい男だ。どうして、こうも好奇心旺盛なのだろうか。もっと他の女に興味を持てば良いのに。欝陶しいったらありゃしない。
食べかけのパンを口にくわえ、席を立つ。あれ?と言った顔で楸さんは後ろをついてきた。鳥の雛かよ。

「ちょっと蛍姉、楸さん何とかしてよ」

「あー、無理無理。あたしの専門外」

最後の一口を飲み込むと、小さな溜め息が零れていった。
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