スピカ
「……はい」

『もしもし、雅?』

あたししか出ないだろ。あたしの携帯なのだから。
うん、と素っ気なく返事を返す。

あ、くそぅ。あたしが電話している隙に、楸さんにベッドを占拠されてしまった。どうしてもあたしの睡眠を妨げたいらしい。
溜め息を吐きながら、受話器の向こう側に「何?」と聞き直した。

『あのさ、』

亞未はどこか言いにくそうに口元をまごつかせている。しっかりしていても、案外、気が弱い。まぁ、そこが亞未の可愛い所でもあるのだけど。

『洋君がさ、結構雅の事気に入ったみたいなんだよね』

「……」

『だから、雅の番号教えてほしい、って言ってるんだけど……』

なるほど。そりゃあ言いにくいはずだ。

決して、洋君がわざわざ回りくどい聞き方をしている訳じゃない。あたしが、前もって悠成君に1日だけだと言っておいたからだ。
昨日、洋君が番号を聞こうとしてこなかったのは、多分悠成君がちゃんと言っておいてくれたからだろう。
まぁ、連絡を取れなくなる女と遊ぼうって洋君も洋君だけどさ。

『ね、ダメかな?』

「あー、」

正直、面倒臭い。だって、男なんて皆同じでしょうが。

だけど。


「……いいよ」

『え、……え? 本当?』

甲高い声が耳をつんざく。2日酔いの頭には最悪な薬で。キーンと一瞬、時間が止まった気がした。

「うん、いいから大きい声出さないでよ。頭に響くだろうが」

『あ、ごめん』

極端に声を潜める。可笑しくて笑いが零れてしまった。

『でも、何でまた?』

「別に、理由とかないよ。嫌いじゃない、それだけ」

『ふぅん……ならいいけど』

自分から聞いてきたくせに、亞未は何だか不納得なご様子。小さな口を尖らしているのが安易に想像出来る。

『じゃ、とにかくそういう事で伝えるよ』

「分かった、じゃね」

じゃ、と繰り返される。
耳元から携帯を離すと、熱の篭っていた耳が少し汗ばんだ気がした。

画面に記された、短い通話時間。

たった1分程度のやり取りなのに、全然一瞬の出来事じゃなかった。

薄い瞳が脳裏に浮かぶ。
嫌いじゃない、それだけ。

今度はマナーモードに設定し直し、パタリと携帯を閉じた。
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