断崖のアイ
◆プロローグ

*地下深くの指令

 イタリア、ローマ市内にある世界最小の主権国家──ヴァチカン。

 ローマ教皇庁によって統治されるカトリック教会と東方典礼カトリック教会の中心地。

 サン・ピエトロ大聖堂の地下深くに存在する特別な機関はローマ教皇でさえ、そこに所属している者たちを動かす事は出来ない。

 その組織は全ての機関から独立している。総指揮は「法王」と呼ばれる人間で、所属している者は主に司祭や牧師である。

 しかし、彼らは一般に知られる司祭や牧師ではない……上の命令を忠実に実行する訓練された兵士だ。

 そこには、ただ共通した思想のみが存在し教派や派閥を問わずそれに従事する。彼らの行動範囲はほぼ全ての国と地域に広がっているため、公用語は主に英語である。

 組織の名は「Under the name of God」それは「U n G」と呼ばれ、大国であるアメリカ合衆国をも動かせるほど絶大な力を持つ。

 白いローマン・カラーに黒い立襟の祭服(キャソック)を着た2人の男性が、薄暗い通路を歩いている。

 煉瓦で造られた通路は地下ということもあり、ゆっくり足音を響かせて暗闇に吸い込まれるように消えていった。

 通路の両端に等間隔に灯されたロウソクが2人の影を曖昧に足下へと降ろす。1人は30代後半、1人は20代前半と見受けられた。

「ユーリ神父」

「! はい」

 足を止めずに男が青年に声をかけた。
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