断崖のアイ

*射抜く瞳

 青年は一般的な部屋に入り、ショルダーバッグを溜息混じりに床に降ろした。そしてこれからの事を考える。

 向こうはこちらの顔を知らない、多少の卑怯臭さは感じるが先制攻撃は有効な手段だ。今日で体調を整え明日を本番としてキャソックをバッグから取りだした。

 夕刻──教会の裏庭でトレーニングしている青年を神父が見つめる。その表情は初めて出会った時と同様に険しかった。

 一通りトレーニングを済ませて休憩に入る彼に視線を合わせる。

「神は」

「!」

「神は全てのものに平等に愛を与える。捕らえることを善しとはしないはずだ」

 諭すように口を開いた。青年はそれに少し眉をひそめたが、落ち着いた声で返す。

「人々に仇なす存在を放置することこそ問題です。殺めはしません」

「全ては世の流れにゆだねるべきだ」

「人々が傷ついても構わないとおっしゃるのか」

「君たちが捕らえた者たち全てが人を傷つけたのかね」

「傷つける前に対策を立てることは重要です」

 問答に先に終止符を打ったのは老齢の神父だった。彼の言葉と目をじっと見つめたあと、やはり溜息を吐き出して諦めたように頭を振る。

「君はまだ若い。これから知ることが多くあろう」

「ご享受ありがとうございます」

 無表情に発して部屋に戻った。
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