向こう。そして。
あっという間に秋が過ぎ、長い冬に足を踏み入れる。

息を吐くと目の前の空気が白く染まった。
夕方の空気は夜に向かって冷え込む。
そして町はツリーやリースで明るい雰囲気を滲ませている。

身体を小さくして歩く俺の隣には、寒さを全く感じていないような舞瀬の姿がある。

「もうすっかりクリスマスモードだな。
なんかワクワクしね?」

「まあ…俺は無縁だからな。」

「そうなのか?
凪って仏教とかそういうの重んじる家なのか?」

「いや、昔は家を飾ったりケーキ食べたりしたよ。
今は一緒に祝う人もいないから、特別何もしないだけ。」

家を飾り付けて、鶏を焼いてケーキを頬張り、そして朝起きると枕元にプレゼント。
普通の家庭でやる普通のクリスマスを過ごしていた。
母さんが死ぬ前までは。
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