異本 殺生石
「悪いが、僕にはどうも君の話が信じられないんだが。まあ、君を嘘つき呼ばわりするつもりはないんだが……」
「そりゃそうでしょうね」
 少女はむしろ当然という風に反応した。
「そちらの二人はさっき見たはずだけど、あたしが乗って来たタイムマシンを見せてあげる。ちょっと庭に出られるかしら?」
 リビングのガラス戸を開けてみんなで庭に出る。あの少女が手首に巻いたブレスレットのような装置をいじると、陽菜の家の上空にさっきの飛行物体が何の前触れもなしに突然出現した。
 銀白色の流線形の細長いボディは近くで見ると意外と大きく、後ろには9本の細長い突起が突き出ている。これには昭雄もしばらくポカンと口を半開きにしていた。少女がまたブレスレットをいじるとそれは再び虚空に溶け込むようにスッと姿を消した。
「空間ステルス機能と言って、時空間の隙間みたいな所に隠しているのよ。どう、これで信じてもらえる?」
 昭雄は無言でうなづいた。陽菜と玄野はあらためて驚いていた。もう百年もすれば、あんなすごい機械が発明されるようになるのか、と。
 一旦全員リビングに戻り、今後の事を話し合う事にした。陽菜としては行きがかり上とは言え、このままその少女を放り出すわけにはいかないような気になっていた。この辺が周りからアネゴ肌ともお節介とも言われるゆえんなのだが。陽菜はふと気がついて少女に尋ねた。
「あ、今頃思い出した。あんた、名前は何て言うの?あ、あたしは陽菜。オサキ、ハルナ」
 だが返って来た言葉は意外な物だった。
「あたしには名前と言う物はないの。収容所ではFD3025号と呼ばれていたわ。あたしみたいに生まれつきのFD症候群患者には名前は与えられない」
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