異本 殺生石
 その異様に白い肌の金髪の少女が語った未来はこうだった。彼女が生まれたのは2085年。その頃日本では「FD症候群」と呼ばれる謎の遺伝病が発生し始めていて、彼女も生まれつきその病気を発症していた。
 その時代の日本政府はFD症候群が広まるのを恐れて発病者を隔離し、治療法を探すためと言って彼女の様なFD症候群患者を体のいい人体実験のモルモットにしていた。少女はちょうどそのころ実用化されたタイムマシンを他の二人の収容所の仲間とともに盗み出し、過去へ逃亡したのだと言った。
「ひでえ話だな……」
 玄野が顔をしかめながら言った。
「でも、なんで過去へ、それもこの時代へ逃げて来たんだい?」
 玄野の問いに少女は少しためらった後、覚悟を決めたように答えた。
「あたしたちFD症候群の発病者を救う方法が一つだけ、過去の世界にあるの。セッショウセキという物質というか物体が、この時代にあると知って、それで。その物質があればFD症候群の発病者を治す事ができるそうなの」
「セッショウセキ?」
 陽菜も玄野も昭雄も異口同音につぶやいた。だがそんな物は誰も聞いた事もなかった。昭雄に言われて陽菜は自分の部屋からノートパソコンをリビングに持ってきて光ファイバーケーブルに繋いで昭雄に手渡した。昭雄は十分以上あちこちのサイトを検索して回ったが、そんな言葉は一件もヒットしなかった。
「やはり、この時代よりもっと過去に行かなければいけなかったみたいね」
 残念そうに溜息をつく少女に昭雄がためらいがちに言う。
< 8 / 71 >

この作品をシェア

pagetop