ヰタ・セクスアリス(vita sexualis)物語

・メンソールの午後

しのぶは少し済まなそうな表情で煙草を灰皿で揉み消そうとした。

「――あ、別に、嫌いな訳じゃ無いから。ただ、何時から吸ってるのか何となく気になって……」

「そうね……いつからだったかしら…」

立ち上る紫色の煙が天上のあたりを漂って妙に神秘的な印象を与える。しのぶはちょっと目を細めて煙草を咥えて一息吸ってから、ふっと煙を吐き出した。

「実はね……煙草は彼から教わったの。彼の周りは何時もメンソールの香りがした…だから、その香りに包まれてると、なんだか、彼と一緒に居る様な気がして…」

しのぶにとってメンソールの香りは、待ち続けている男性の影なのだ。

「――しのぶは、その彼に会いたいのか?」
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