空しか、見えない
「だからって、なんで岩井?」

 純一の声も、加わってくる。みんな岩井の地名を口にしながら、悲しむかわりに義朝に呆れてみせた。「なんで岩井なんだよ」って言うのは、「なんでそんなことに」とか、「なんでそんな目に」って言うよりずっと、義朝の短すぎる人生を清々しく見せてくれた。それが彼のキャラクターだったのを、少なくとも佐千子は忘れたくなかった。

「葬儀の花をハッチでもひとつ出そうって、それはフーちゃんがやってくれてる。構わないよね」

 佐千子の問いかけに、環は短く沈黙した。
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