空しか、見えない
「あいつも、ばかだわ。いいわよ、しいて答えるなら、全部です。呆れて、怒り狂って、恨んでやって、それで、もうすっかり忘れてた」

 のぞむの大きな手が、佐千子の腕から手の先の方へとゆっくり降りていった。

「ふーん、じゃあ、嫌いにはなっていないんだ」

 佐千子の内側から、ひぇっという裏返ったような声が出てしまった。
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