空しか、見えない
 岩井海岸の浜辺にあがる水飛沫、海と呼応するかのように青く澄んだ空、みんなで必死に泳ぎきった後の、氷砂糖の格別な甘さ……。
 あれから10年も経って、みんなはそれぞれ頼もしい大人になっていたのは、確かだった。自分ばかりは冴えないけれど、マリカや千夏はたぶん相当イケてる方に違いないし、フーちゃんはいかにも賢そうな上、特別に天真爛漫なのが魅力だった。純一のピアノは心に響いたし、のぞむは大都会ニューヨークで自立している。環はいかにも、会社で責任ある仕事をしている風で、自信に満ちた大人になっていた。
 みんな立派なのには違いないけれど、あの頃のきらめきとは違っていた。誰もが大人ぶってはいるけれど、あの頃の、心も体も神様から祝福されているかのようなきらめきはない。夜通し飲んで騒いでも、何かが欠けているような気がしたと言っては、言いすぎだろうか。大人なのだから当たり前なのかもしれないけれど、それが佐千子には寂しく写って仕方がなかった。
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