空しか、見えない
 急に、インターフォンが鳴った。
 こんな時間に、一体誰だろう? とっさに、マンションの大家さんたちの顔が浮かんだ。世話好きのご夫婦で、しばらく顔を見ないと心配になると、急に果物などを手に訪ねてくる。そういう関わり方が嫌な人ならたまらないだろうが、佐千子は不用心なひとり暮らしの、ご好意と受け取っている。

「はい」

 一応、オートロックのマンションなので、エントランスのカメラ映像は室内のモニターに映る。
 それとも、さきほど別れたばかりの千夏だろうか。何か忘れ物でもしたのだろうか?
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