空しか、見えない
 今年になって、ハッチのメンバーたちは、頻繁にバーに立ち寄ってくれるようになった。まだ髪の毛が濡れていたりして、ジムで泳いだ帰りの様子が微笑ましかった。
 みんな、まゆみより5歳も若い。若いとはいえ、『サセ新聞』を読んでいても、もう立派な社会人としての配慮がある。
 なのに、バーに二人三人と揃い始めると、とにかくぴーちくぱーちくおしゃべりが始まり、絶える気配がない。
 カウンターの内側で、まゆみは、みんなで一緒にいると、つい昔に戻ってしまうんだなと感じる。そして、まるで、今もそこに義朝が座っているように思えて仕方がなくなる。
 自分とふたりきりでいたときとは少し別の顔をして、朗らかにしていたのだろうと想像する。
 みんなが話す義朝像は、いつも笑っているかのようだ。周囲を和ませる、どこかとぼけた存在だったのだろうか。
 でも、まゆみとふたりきりの義朝は、時折気難しそうに黙り込んだ。
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