空しか、見えない
 岩井海岸にはまるで、南の島のような姿形のいい浜辺が続いている。

 〈下見してきたぜい!〉

 この週末に一緒に出かけたらしい、純一とサセがVサインをしている画像、いきいきとした様子が伝わってくる。
 伝わってはくるが、懐かしいとか、自分も今にも泳ぎ出したくなるとか、そんな気持ちは、のぞむにはどうしても沸き上がってはこなかった。
 療養中の身だからなのもあるけれど、のぞむは、そこが世界の果ての、どこか遠い場所にしか感じられなかった。それ以上真剣に、サセ新聞の文字を追うこともできなかった。
 さっき、ルーが泣きじゃくりながら、食事をしていた顔が、可愛かった。
 ルーにひどいことをしたという悔いと、ルーがもうじき出ていってしまう部屋の寂しさを思うと、のぞむはせめてしばらくはここに埋もれていなければならないように感じて仕方がないのだ。そうでなければ、自分という人間は、これからも少しも人の心もわからずに、ずっと同じような適当なことばかりを繰り返してしまいそうなのだ。ルーが教えてくれた、今のこの感傷を忘れてはいけないのだと感じていた。
 だから、ごめんな、サセ、やっぱり返信できないよ。俺、ハッチからはもう脱落したみたいだよ。そう呟くと、パソコンの電源を落とした。
 ソファで寝入った子どもを、ルーの寝室にあるベッドの方へと、移してやった。
 その子の丸い額にキスしたとき、まるでルーに口づけているような気持ちになった。
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