空しか、見えない
「純一、どうしても、もう一回、説得できない? 私は、由乃さんにも、わかってほしいよ。わかってもらうだけじゃなくて、それ以上に、応援もしてほしいの。純一だって、さっき自分で口にしたようなことを、もしも本気で思ってるなら、あなたが、本気でハッチの思い出を大切にしているっていうのなら、ハッチは純一の一部なんじゃない? ハッチは、由乃さんの大好きな純一の一部のはずでしょう?」

 佐千子は、一気にそう畳み掛けた。

「遠泳の距離を短くしたっていいと思うし。そうしたら、環だって泳げるのかもしれないし、それに……」

 さらにそう続けた佐千子の声が小さくなり、萎んでいった。
 純一が再び腕時計の面を気にしている。
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