空しか、見えない
 いよいよ来週には、メモリアル遠泳のメンバーは、岩井海岸へ出発する。土日を挟み、3泊4日の行程だ。
 週末を挟むにしろ、前後2日は休む計算になり、バディはそれぞれ、会社などに休暇届を出したようである。
 佐千子は会社に、ごくありきたりの「休暇届」という書類を提出し、特別、問題もなく受理された。

「どこか、旅行でも?」

 編集長は特別、深い意味もなくそう問いかけてきたが、佐千子は、いつもの癖でまた少し考え込んでしまった。旅行というわけでもないし、同窓会とも違う。海へ行く、というのは正しいが、海水浴でもない。
 やはり自分は「遠泳」へ行くのだ、という思いが、その場で膨らんでいった。

「行くといっても、房総なんですが」

 そうとだけ答えたが、本当は編集部でも、「私、遠泳してくるんですよー! 海で3キロも泳ぐんですよー」と、宣言したいような心境だった。
 威張りたかったわけではなくて、少しでもこの上擦った自分の心を落ち着かせたかったのだ。
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