空しか、見えない
 岩井の町、全体に広がる抜けるような青空、さんさんと降り注ぐ陽光は、胸のつかえさえ溶かしてしまうようだった。
 海岸で、砂山競争をしたり、カニを獲ったり、浅瀬を泳ぎ始めたり、夜になると山側の清流までホタルを見に行ったり。
 予定していた遊びのひとつひとつが、かつて岩井で過ごした輝くような時間を思い起こさせ、誰もを無邪気にしてしまった。
 けれど、中でものぞむとふたりきりで話す時間が、たくさんできたのは、知らず知らずのうちに、バディたちがそんな雰囲気作りをしてくれていたからなのだろう。
 ホタルのいる小川では、清流の冷たい水に触れながら、のぞむは佐千子の傍を離れなかった。
 そんな様子は、弟や小さな男の子のようで、いじらしいほどだった。
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