フィレンツェの恋人~L'amore vero~
腹わたが煮えくりかえる。


捨てたくせに、今更何だというのだろうか。


いい大人が鼻水を垂れ流し、擦れる声をしゃくり上げる。


「いい加減にしてっ……」


それは、慎二からの着信だったのだから。


私は無意識のうちに、


「バカにしないで!」


初雪でシャーベット状になったアスファルトめがけて、携帯電話を叩きつけてやろうと右手を振り上げた。


『被害者の女性の身元が判明しました』


「……じょ、せい」


が、スピーカーから流れた美声で、ふと、思いとどまった。


『名前は、イケウチトウコさん。年齢は二十歳。現在、搬送先の病院で処置を受けており……』


振り上げたはずの右手から、力が抜けて行った。


「トウコ……」


さすが、クリスマス・イヴだと思った。


こんな事もあるのか。


苗字、歳は違えども、名前が同じだなんて。


しかも、お互いにツイてないのね。


最低、最悪のクリスマス・イヴになってしまったわね。


トウコ、さん。


『イケウチさんの意識ははっきりしており、命に別状はないとの事です』


そう。


だけど、死ななかったのね。


良かった。
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