フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ご紹介、遅れました」


鷹司の社長と握手を終えた桔平がすっと私の肩に手を回して、一歩前へ出させた。


「私の、家内です」


うっかりしていた。


ぽかんとするわたしの背中を、桔平がこっそり指で突く。


いけない。


私、柏木東子だった。


私は慌てて、鷹司一郎に会釈をした。


「妻の、東子です。お目にかかれて光栄です」


「いや、これは驚いたなあ。柏木くんに、こんなに美しい奥さんがいたとはね」


よろしく、と鷹司一郎が私に手を伸べる。


「いや、それが、なかなか気が強くて」


と言葉巧みに笑う桔平の隣で鷹司一郎の手を握り返し、作り笑顔も一緒に返した。


ぷよぷよとした太り気味の手は、鷹司一郎の裕福な暮らしをそのまま表しているようだった。


「東子さん」


鷹司一郎が、言った。


「私の一人息子の、コウです。これも何かのご縁と思い、お見知りおきを」


「はい」


視線を彼に移動させ、私は驚いた。


彼は、すらりとした外国人モデルのような体型で見るからに清潔感にあふれ、そのキリリとした顔立ちはまさに知的風貌の貴公子だった。


でも、私が驚いたのは、彼の容姿の良さではなかった。


彼の、私を見るその表情だった。


まるで幽霊と遭遇したような、ぎょっとした目をしていたからだ。


私、何かおかしいのかしら。


彼は切れ長の目を極限まで見開き、今にもひっくり返りそうなほどに体を弓なりに反らせて、突き刺すような視線を私に浴びせた。


「あの……」


話しかけても、彼は固まったまま私を見ている。


「どうした、コウ」


鷹司一郎に肩を叩かれて、彼はようやく我に返ったようだった。

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