フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「まずは、アベリティフだな。何がよろしいかな。コウ、お前に任せる。セルヴールを呼んでくれ」


と鷹司一郎が息子に振ると、


「すまない」


彼は慣れたように軽く手を上げて、近くに居た黒ずくめの店員を呼んだ。


「アベリティフはシードルにしてくれ」


「はい」


シードルとは食前酒で、林檎の発泡酒の事だ。


「シードルか。いいな。女性の東子さんも、シードルならしつこくなくていいでしょう」


鷹司一郎に、私は微笑んだ。


「ええ。お気遣いありがとうございます」


シードルを頼んでくれたのは、一郎ではなく、コウなのに。


ソムリエがチョイスしてくれたワインをたしなみながら、オードブルを意味する、アヴァン・アミューズ。


その後のアミューズ・グールは、居酒屋でいう付き出し。


次に、前菜を意味する、アントレ。


ポタージュ、そして、ここで一度口直しの氷菓子。


グラニテ。


魚のメイン料理、プラ。


肉のメイン料理、ヴィヤンド。


メインを終えると、店員がワゴンにたくさんの種類のチーズを乗せて運んでくる。


自分の好きなチーズをチョイスする事ができる、フロマージュ。


デザートの前にはクッキーなどの小さなお菓子。


そして、デザートのデセール。


それが終わると、ようやく食後のお茶というわけだ。


カフェ・ウ・テ。


コーヒーや紅茶に、一口で食べられるお菓子のお茶請け。


疲れる。


これだから、フレンチは苦手なのよ。


いちいち事細かくて、順序があって、面倒で、品数も多くて。


母に連れられて初めて食べに行った時から、フレンチはどうも苦手だ。


「すまない」


カフェ・ウ・テの直前に、鷹司一郎がセルヴールを呼んだ。


「カフェ・ウ・テだが、私だけ省いてくれ。代わりに、ワインをくれないか」


「はい。では、今ソムリエをお呼び致します」


と店員がすたすたと去って行くのとほぼ同時に、鷹司一郎が話し出した。
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