フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「それで、柏木くん」
と、まあるい顔をほんのりと赤ワイン色に染めて、鷹司一郎は周りをしきりに確認したあと、桔平に言った。
「先程の続きなんだが」
「はい」
興味深そうに耳を傾ける桔平の隣で、私は口を一文字に結び、膝の上で両手をぎゅっと握った。
店内は暖房が行き届いていて暖かい。
でも、決して汗をかくような温度ではなかった。
無理だ。
ごくっと唾を飲み込んで、きつく目をつむった。
私は手にじっとりとした汗を握っていた。
これ以上はもう、無理だ。
我慢できない。
「知っているかね」
ハリウッドスター並に素敵な声にさえ、苛立ちを覚える。
「九条の御曹司が失踪したらしい」
「知っています」
桔平の聞き慣れた温かみのある声も、私を救ってはくれなかった。
手のひらに爪が食い込むほど、手を握った。
テーブルの上をぽんぽん行き来する会話は右から左へ、するすると流れて行った。
「ここへ来る前に立ち寄ったコンビニで、今日出たばかりの雑誌にその事をほのめかすような記事が掲載されていました。曖昧な書き方でしたが、ピンときました」
「さすがですな。売れっ子ライターさんは、情報がお早い」
手を握りしめるだけでは足らなくなり、今度は膝上のナプキンをぐしゃりと握りしめた。
急に、鷹司一郎の浮いた声がワントーン低くなり、淡々とした口調になった。
「今、九条が窮地に立っているのは間違いないだろうな。期待の息子が消えたのだからね」
だけど、私は苛立ちが膨らみ、爆発寸前だった。
「もう1年になるかな。一度、会った事があった。まだまだ子供だと思って甘く見ていた。しかし、アレ、はなかなか頭のキレる息子だった」
「えっ! 九条の御曹司とお会いした事が?」
ああ、と鷹司一郎の声が少し大きくなった。
と、まあるい顔をほんのりと赤ワイン色に染めて、鷹司一郎は周りをしきりに確認したあと、桔平に言った。
「先程の続きなんだが」
「はい」
興味深そうに耳を傾ける桔平の隣で、私は口を一文字に結び、膝の上で両手をぎゅっと握った。
店内は暖房が行き届いていて暖かい。
でも、決して汗をかくような温度ではなかった。
無理だ。
ごくっと唾を飲み込んで、きつく目をつむった。
私は手にじっとりとした汗を握っていた。
これ以上はもう、無理だ。
我慢できない。
「知っているかね」
ハリウッドスター並に素敵な声にさえ、苛立ちを覚える。
「九条の御曹司が失踪したらしい」
「知っています」
桔平の聞き慣れた温かみのある声も、私を救ってはくれなかった。
手のひらに爪が食い込むほど、手を握った。
テーブルの上をぽんぽん行き来する会話は右から左へ、するすると流れて行った。
「ここへ来る前に立ち寄ったコンビニで、今日出たばかりの雑誌にその事をほのめかすような記事が掲載されていました。曖昧な書き方でしたが、ピンときました」
「さすがですな。売れっ子ライターさんは、情報がお早い」
手を握りしめるだけでは足らなくなり、今度は膝上のナプキンをぐしゃりと握りしめた。
急に、鷹司一郎の浮いた声がワントーン低くなり、淡々とした口調になった。
「今、九条が窮地に立っているのは間違いないだろうな。期待の息子が消えたのだからね」
だけど、私は苛立ちが膨らみ、爆発寸前だった。
「もう1年になるかな。一度、会った事があった。まだまだ子供だと思って甘く見ていた。しかし、アレ、はなかなか頭のキレる息子だった」
「えっ! 九条の御曹司とお会いした事が?」
ああ、と鷹司一郎の声が少し大きくなった。