フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「その日、私は、人に裏切られ捨てられて、人を拾いました」


美月に裏切られ、慎二に捨てられ、ハルを拾った。


「友人に裏切られ、婚約者に捨てられ、ポチを拾いました」


「ポチ……?」


「ええ。同居人のこと」


不思議なものだ。


住めば都、という言葉があるけれど、そんな感じだった。


絶対に関わりたくないとあれほど思っていたはずなのに、いざ話してみると、鷹司煌は思っていたほど嫌な人間ではなかった。


アルコールが手伝ってくれたことも関係していたのかもしれない。


気付くと、ぺらぺらと話していた。


そして、何より、ハルの事を話していると少し楽しくて、彼への不信感がすうーっと溶けて行った。


満腹の胃に消化剤を流し込んだように、すうーっと。


「あの日、悲しかったのではなく、私は寂しかったのだと思います。婚約者を失って……いいえ。婚約者というより、寄り掛かれる存在が無くなってしまった事が嫌だっただけなのかも」


煌さんは、どこまでも紳士だった。


うん、うん、と熱心に聞き手に徹してくれた。


「消えてやろうと思いました。死んで、後悔させてやろうって。ポチを拾う直前までそんな馬鹿みたいなことを考えていました」


「それで」


と煌さんは真面目な顔で聞いてくれた。


「でも、破談になって当然です。これで良かったのだと思っています。私には結婚などふさわしくないですから」


「なぜ、そう思うのです?」


「お恥ずかしい話なのですが」


今になって、ワインのアルコールが回り始めたらしい。


頬がロウソクの灯のようにぽうっと熱くなってきた。


「私は、人を愛するという事が分からないんです。愛し方が、よく分からない」


もし仮に、あのまま何事もなく春になって慎二と結婚していたとしても、結局、離婚していたのではないだろうか。


いずれにせよ、慎二は父親になる事を望んでいただろう。


でも、私は母親にはなれないのだろう。


そして、少しずつふたりには溝が出来て、いずれきっと。


そうなるのなら、やはり、これで良かったのだ。

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