フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「このネックレス」


ええ、と煌さんが、私の首元をまじまじと見つめる。


でも、不思議と嫌だとは思わなくなっていた。


「オリオン座、なんですって。オーダーメイドの一点物みたい」


「オリ……オン……ですか」


明らかに煌さんに変化があった。


その端整な貴公子のような顔から、一気に笑みが消え去った。


煌さんは僅かに呼吸を荒くして、突き刺すような視線をネックレスに注いだ。


まるで、財宝の在り処が記されている宝の地図を前にした、海賊のように。


そして、高級ブランド品の偽物を見抜く、鑑定士のように。


「あの……あの、煌さん」


私の声にハッとしたのか、


「あ、いえ。素敵だなと思って」


と爽やかに笑顔を取り戻した。


「美しくて聡明な東子さんに、とても合っていますね」


煌さんは言い、テーブルの上に出しっぱなしにしていた手帳と万年筆をスーツの内ポケットに戻した。


「ところで、その同居人の方は、何がどのように変なのですか」


「さあ……それが、私にもよく分からないの」


「と、いうと?」


私はうーんと頭を捻って、結局、分かりませんと笑ってしまった。


本当に分からないのだから、どうしようもない。


ハル、という人間についても。


「分からないです。だって、本当に変だから」


それを、どう説明すればいいのかも。


ただ、と私は続けた。


「その人が私の所へ来てくれなかったら、私はおそらく、今ここには居なかったのでしょうね。生きていなかったのかもしれません」


ただ、確実に、私は救われたのだ。


あの、最低最悪のクリスマス・イヴの夜。


私は、ハルに、救われた。


「クリスマス・イヴの夜でした」


煌さんは何も言わずにただ静かに、私の話に耳を傾けているようだった。

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