フィレンツェの恋人~L'amore vero~
ぽつ、ぽつ、と長く伸びたパイプ管からしたたり落ちる滴の不気味な音が、さらに気味の悪さを際立たせる。


まるで、下水管の中のドブネズミになったような、陰気な気持ちになった。


この路地は、良く晴れた日の昼間でさえ、通るには勇気がいる。


三百六十五日、二十四時間、じんなりと湿っていて異次元空間に思える。


早く通り抜けてしまおう、と歩く速度を上げた瞬間、


「……へっ、くしょ」


その声が路地に響いた。


「……ひっ」


私は息を殺し、跳ね上がる心臓を両手で押え付けながら、立ち止まった。


背筋が凍りつく。


誰かが、いる。


けれど、再び静寂に包まれる狭い狭い空間。


足が棒になり、膝から下がガクガク小刻みに笑いだす。


決して、寒さから来る震えではなかった。


恐怖だった。


静か過ぎる裏路地に響いているのは、私の鼓動だった。


大通りに戻ろう、そう決めた時、前方の隅に追いやられていた草臥れた古いポリバケツが、ガタリと音を立てた。


私は覚悟した。


そこに居るのは、さっきの殺人未遂の犯人かもしれないと思った。


絶対に違うとは言い切れないし、有り得る事でもあるのだ。


私は、きっと、殺される。


目撃者として、殺される。


でも、それならそれでいいと思った。
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