フィレンツェの恋人~L'amore vero~
美月も、平賀彰子も、私より若くてくらべものにならないくらい可愛い。


美月が寿退社すれば、またすぐに若くて可愛い子が入ってくるのだろう。


その子がもし、英語ができでもすれば、私はおそらく用無しになるのだ。


「ねえ、牧瀬ちゃん」


「何?」


一拍あってから、華穂が言った。


「来ない? 企画課に」


「何言っているの。無理よ、無理。私には無理よ」


私は笑ってしまった。


それでも華穂は至って冷静に、真剣な眼差しを私に向けて来る。


「3月いっぱいで辞める子がいるの。その子、唯一英語ができる子だったのよ。参っちゃって。ほら、私、英語できないわけだ」


「でも、募集すれば、優秀な人材はいくらでも出てくるでしょう?」


「募集しなくても、いるじゃない、ここに」


と華穂が私を指さした。


「その英語力、企画課で思う存分、生かしてみない?」


後悔はさせないわ、と言った華穂は笑っているけれど、その目は真剣そのものだった。


「一度、真剣に、前向きに。考えてみてくれない? 返事は急がないわ」


「でも、私、企画の仕事なんて――」


「そんなの、やっていくうちにできるようになる! 誰だって最初はゼロからなんだから」


私だってそうだった、と華穂は言い、そっと私の手を離した。


そして、生き生きとした目で、私を見つめてこう言った。


「これは、ヘッドハンティングよ。牧瀬、さん」


ヘッドハンティング。


私には一生無縁の言葉だと思っていたから、だから、胸が高鳴った。


だからと言って、勢いだけで企画課へ行こうという気にはなれなかったのだけれど。











仕事を終えた後のロッカールームで着替え終わった時、平賀彰子が大きな声を出した。


「あああっ! そうだっ!」


同時に、細い手首に香水をワンプッシュさせながら。


たちまち、ロッカールームはNina Ricciのベル・ドゥ・ミニュイの香りに包まれる。


「牧瀬さん、牧瀬さん」


と彼女は上半身は制服、下半身は真っ赤なプリーツスカートというちんぷんかんぷんな格好で、私の肩を叩いた。


ロッカーに施錠をして、私は振り向いた。


「どうしたの?」


「ごめんなさーい。実は、牧瀬さんがランチに出かけていた時、男性が訪ねて来たんですけどお」


「私に?」


はい、と平賀彰子が頷く。
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