フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「大丈夫って、何が?」


「さっきから、へんな東子さんだ」


とハルが指さしながら笑った。


「お腹が痛いんでしょ。さっきからずっとそうして、苦しそうな顔をしているから」


「……あ。違うわ」


とっさにお腹から手を離して、首を振った。


「痛くない」


「そう?」


「全く痛くないわ」


「それならいいさ。でも、本当に冷えて来たね。帰ろうか」


ハルはおみくじをダウンジャケットのポケットに突っ込んで、私の手を握った。


「わあ、東子さんの手、氷みたいだ」


ハルの手はびっくりするほどぬくぬくしている。


空気はキンキンに冷えていて、頬が引きつりそうなほど寒いのに。


「帰ろう。それで、にがーいコーヒーが飲みたい」


ハルの手はどうして温かいのだろう。












神社をあとにしてマンションへ向かっていると、


「東子さん、東子さん」


突然、公園の前でハルが立ち止まった。


「あの明りは何かな」


公園をまたいだ通りの奥に、ぼんやりとしたやわらかな明りが見える。


「さあ。お店、とか?」


いつも通っている道だけれど、夜に通ってみると全く違う気がするのはなぜなのだろう。


明りを見つめていると、私の手を引き、ハルが明らかにマンションとは違う方向に歩き出す。


「行ってみよう」


「ええー……やめましょう。帰りたいわ、私」


「いいじゃないか。夜の冒険、したことないんだ。わくわくする」


「冒険ねえ。もう冒険するような歳じゃないわ、私は」


「いいから。ぼくについて来て。ぼくの言う事を聞いて」


「……もうっ」


ハルについて行くと、そこはライトアップされた小さな小さな教会だった。
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