フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ぼくは、頭がおかしいんだ。狂っているんだ。本当のぼくを教えたいのに、それ以上に知られたくなくて必死なんだ。毎日だよ」


必死に何かを訴えかけてくるその強烈な眼差しに、私は困惑した。


「お願いだよ。何も聞かないと言って。ぼくを知ろうとしないで。何も聞かないで」


ハルは今にも泣きだしそうな目をしていた。


その強い目つきに、胸を突かれた。


「東子さんだけは、汚したくないんだ」


「ハ……ル……」


エキゾチックでミステリアスな瞳が、私を硬直させる。


「ぼくの全てを知ったらきっと、東子さんはぼくを軽蔑するんだろうね。嫌いになるんだ、おそらく」


拒むことなど、できなかった。


いいえ。


拒む気など、端からこれっぽっちもなかったのだ。


「東子さんに、嫌われるのが怖いんだ。嫌われたくないんだ」


そう言ったハルの唇が、私の首筋を這う。


「ハルっ」


私はとっさにハルが着ていたスウェットの裾を掴んだ。


ハルと目が合う。


「ぼくを嫌いにならないで」


吸い込まれるように、どちらからともなく、唇を重ねていた。


すぐに唇が離れる。


薄く開いた目で見つめ合いながら、ハルが言った。


「東子さんに嫌われたらきっとぼくは、ガラスのように粉々に砕けて、割れて、元には戻れなくなってしまうよ」


そして、どちらからともなく、今度はむさぼるように、夢中で唇を奪い合った。


ハルは私の頬をしっかりと捕まえて。


私はハルのスウェットの裾をきつく握りしめて。


何度も何度も、キスを繰り返した。


足のつま先から頭のてっぺんまで、強烈な痺れに全身をたっぷりと支配されながら。
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