フィレンツェの恋人~L'amore vero~
いえ、違う。


さっき、路地で拾った時から変な子だと思っていた。


最近の若者にしては妙に言葉使いが綺麗だし、仕草も落ち着きがあって。


夜なのにもかかわらず部屋という部屋の明りを全て消して、窓辺に立っていたり。


何でもないスウェットを、高級ブランド服を見るような目で見ていたり。


ハルの言動自体、変わっている。


生まれて来た時にはもう、ぼくには自由なんてなかった、なんて。


まるで、ハルの人生が誰かに決められているかのような言いぐさだ。


まして、今夜のハルの行動自体、奇抜なものだ。


この寒空の下、あんな陰気くさい何時人が通るのか分からないような場所で、膝を抱きしめて蹲っていたりして。


ぼくを拾ってください、だなんて。


「ねえ、ハル。あなたの事、聞いてもいい?」


「ごめん。言いたくないんだ。何も聞かないで」


それでいて、これだ。


ハルは、自分の事を話したがらない。


だけど、エキゾチックでとても魅力的な目を、ハルはしている。


「東子さん」


と囁いたハルの手が伸びて来て、人差し指の背中が私の下唇に触れた。


「冷えてしまったんだね。唇が青紫色だ」


そして、野蛮な目をハルはしている。


「コーヒーを飲んだら、東子さんもお風呂で温まるといいよ。風邪をひかないように」


心の優しい野生の獣が、理性を失う寸前の目だ。


「ええ、そうする」


でも、一番おかしいのは私だ。


名前しか知らない身元不明の若い男を拾い、簡単に部屋に上げるなんて、非常識だ。


これじゃ、ただの節操のない世間知らずの女だ。


カップにコーヒーを注いでいると、背後でハルが言った。


「東子さんは、泣き虫なんだね」
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