フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「何……突然」


「左目の下に、ほくろがあるから」


「ああ、泣きぼくろの事ね」


「うん。それがある人は泣き虫なんだって、聞いた事があるんだ」


コーヒーを注いだカップから、熱い湯気が立ち上る。


「泣きぼくろがあるからと言って、必ずしも泣き虫だとは言い切れないわ」


私は小さく笑い飛ばした。


だけど、確かに思い当たる節はいくつかある。


私はおそらく、泣き虫なんじゃないかと思う。


「でもね、みんなそんな事を言うのよね。幼い頃も、高校生の時の友人にもよく言われたわ」


――泣きぼくろがある人は、泣いてばかりの人生なんだって


――男に泣かされる人生だから、気を付けた方がいいよ


……なんてな具合に。


その度に、私は悲しくなった。


「それに、こんな事も言われたの」


「どんな事?」


「泣きぼくろをなぞる涙は、悲しい恋しかできない、って」


それを言ったのは、慎二だった。


初めて体を重ねた夜だった。


そんな事を耳元で囁きながら、慎二は私の泣きぼくろを撫でた。


そして、こう言いながら、泣きぼくろについばむようなキスを落とした。


――でも、それはただの迷信だよ。それを、俺が証明してみせるよ


結局、その男に泣かされる事になってしまったけれど。


急に泣きたくなり、私はそれをごまかすように笑顔を作って、トレーにカップを置いた。


「ほくろの話はもうおしまい。さ、これ、リビングに運んで。冷めてしま……う……」


「東子さん」


その時、私の手首を掴んだのは、真面目な顔をしたハルだった。


「何をそんなに我慢しているの?」


「え?」


「泣きたいなら、泣けばいいのに。せっかく、泣きぼくろがあるのにもったいないよ」
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