フィレンツェの恋人~L'amore vero~
この通りの住人は、こぞって深夜ミサに出掛けているのかもしれなかった。


普段でさえ閑静な場所だというのに、ヴィクトル・ユゴー通りはひっそりと厳粛に静まりかえり、車の通りはおろか人の姿が見当たらない。


けれども、通りは明るかった。


ぽつり、ぽつりと灯るガス灯の明るさなど足元にも及ばないくらいの月光と、その光を吸収して宝石のような煌めきを放つ新雪。


私の目の前に立ち塞ぐようにして突っ立っていた煌が、一歩、前に進む。


「それを、こっちへ……母さん」


と煌が右手をすうっと差し伸べる。


「ダメよ! 渡さない! やっと見つけたの! ミチルが見つけてくれたのよ!」


怒鳴り声に、煌が立ち止まる。


煌の肩をそっと叩くように、羽根のような雪片が降り積もっていく。


煌の体越しに見えた彼女の手には黒光りする拳銃が握られている。


「酷いじゃない、煌。どうして、隠していたの」


ふふ、と小さく笑いながら銃を見つめるその姿に、背筋が凍りついた。


「でも良かったわ。ブルームーンの夜に間に合って」


通りの向こうから冷たい北風が吹きつけて、私の首を圧迫するようにくるんだ。


立ち尽くす煌のジャケットの裾が夜の風にはためく。


煌の手から離れて飛んだ紙がパタ、と私の足首に巻き付いた。


それを手に取り、目を落とす。


夜だというのに、何という明るさなのだろう。


ブルームーンの明るさは、綴られていた文字を一字一字はっきりと浮き上がらせる。


日本語だった。


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