フィレンツェの恋人~L'amore vero~
月が青いというわけではないんだけどね。


ひと月に2度、満月の夜があって。


その2度目の満月をブルームーンと言うんだって。


ブルームーンを見た人は幸せになれるとか、願いが叶うとか、いろいろ言われているらしいんだけど。


と、言う事はだよ、華穂。


僕たちはみんな幸せになれるっていう事になるのかな。


ねえ、華穂、聞いているのかい?


『Kaho?』


ブルームーン、か。


確か……さっきも。


ハッとした。


――今夜はブルームーンね、かほ


脳裏に蘇えったのは、彼女の悲しげな微笑み方だった。


「Pascal,Desole! (ごめんなさい)」


『ka――』


一方的に切った電話をソファーに投げ捨て、私はリビングを飛び出した。


突き当りを左に曲がって、立ち止まる。


階段に敷かれた絨毯すれすれを這うように吹き上がって来たのは、ツンと冷たい冬の凍てつく、外気。


そこから下りて来るな、と言われているようで、足がすくみそうになる。


すくみかけた足で階段を駆け下りると、玄関のドアが全開になっていた。


玄関を飛び出し、私は迷う事なくエレベーターに背を向け、階段を使って下った。


エントランスの向こうから言い争うような声が聞こえてくる。


薄暗いエントランスをくぐり外へ飛び出すと、月光と雪の明るさでまるで朝靄の中へ迷い込んだ錯覚に陥った。


「何を考えてるんだよ! 母さん!」


煌の声が、静かな通りに木霊する。


月光と雪の眩しさに目を細めた私の視界に飛び込んで来たのは、現実とは思えないほどおどろおどろしく、息が詰まるような緊迫した光景だった。

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