フィレンツェの恋人~L'amore vero~
読み終えた私の体を支配したものは本能的な直感と、説明しがたい感得だった。


例えば。


ミチルという人格を通して、この人は綿密な計画を練っていたのではないだろうか。


もしくは。


全てが演技によるもので、実際は鷹司紘子の人格しか存在していなかったのではないか。


そして。


始めから死を望み、覚悟を決めていたのかもしれない、と。


カチャ。


微かな金音にハッとし顔を上げた。


「母さん!」


緊迫した煌の声に、私は唾を飲んだ。


黒光りする銃は容赦なく、煌に向けられている。


「私はもう騙されないわ」


「母さ――」


「煌!」


彼女は煌に銃口を向けたまま、こちらへ来るなとでも言いたげな強い目で煌を睨み付ける。


「な……ぜだ……母さん……」


それに従うように声を上擦らせながら、煌が立ちすくむ。


その様子を見て安堵の表情を浮かべた彼女は「良い子ね」と優しく言い、ぎこちない微笑みを煌に向けた。


煌に向けられていた銃口はゆっくりと移動し、私に向けられた。


「悔しいものだわ、かほ」


彼女のワンピースの裾が風にはためき、膨らむ。


銃口を向けられているというのに、私は冷静だった。


「せっかく、煌が恋人を連れて来たというのに」


銃口を向けられても全く恐怖感がないのだ。


それどころか、不思議な安心感さえあった。


私に銃を向けたまま、


「悔しい。本当に」


と彼女はにっこりと不器用なほど優しい微笑みで続けた。


「あなたとはもっとたくさんお話をする予定だったのよ。かほ」


本当に、胸がえぐられるような優しい微笑み方だった。


銃口はゆっくりと私から反れて行き、冬の冷気を切り裂くように半円を描きながら、彼女の白い手によってそこに導かれるようにこめかみにあてがわれた。
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