フィレンツェの恋人~L'amore vero~
暖房を最大にして、煌のジャケットをハンガーに掛けながら言うと、


「今、温かい飲み物淹れるから」


煌は暖房前の床に座り毛布にくるまりながら「要らない」と首を振った。


「お腹は? 空いてないの?」


「何も要らない」


何も要らないから、明りを消して、こっちへ来て、と煌が言う。


私は言われた通りに明りを消して、煌のそばへ行った。


煌は毛布を広げ私に入るように言った。


もそもそと毛布に入ると煌は私を背後から抱き締めて、毛布にくるまった。


冬のツンとした匂いと煌の香水の匂いが私を包み込む。


「華穂」


耳に煌のくたびれた声がまとわりついてくる。


「うん」


返事をすると、煌は背後でゴソゴソして「これ」と私の顔の前で右手を開いた。


「……何? 暗くて良く見えない」


開かれた右手の中を見つめて小首を傾げると、煌は窓から差し込む月明かりにそれをかざした。


弱い月光に照らしだされ、透明な輝きを放ったガラスのボトル。


ハートを逆さにしたガラスのボトル容器には、ブラックドレスのイラストと筆記体のフランス語が綴られてある。


「わ……可愛い。これ、フレグランス?」


聞くと、煌は小さな声で「うん」と頷いた。


「ゲランのオーデトワレ」


そして、それを月明かりにかざしたまま言った。


「クリスマスプレゼント。遅くなってごめん」


ボトルは淡い月光を吸収しながら薄いパープルピンク色に煌めき揺れていた。


「これ、何て書いてあるの?」


煌の腕ごとたぐり寄せ、綴られている文字を見つめる。


「暗くて読みづらい。ええと……ラ……」


すると煌はボトルをさらに月明かりにかざし当てて、囁くように言った。

< 415 / 415 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:9

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

恋蛍2

総文字数/21,093

恋愛(純愛)20ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【恋蛍2】 これはさぁ、ユタのおばぁが生きとった時に、オレの母さんが聞いた話さ。 人は2回、死ぬんだってさ。 1回目はその命を終えて、この海のずっとずっと向こう、常世の国、ニライカナイへ行った時。 2回目はこの世にそのひとのことを覚えてくれとる人がおらなくなった時。 だからさぁ、いろはが、その子のことを忘れずに大切に想い続けていたら、その子に2回目の死は訪れないってことだよね。 どうだね。 オレにもその手伝いさせてくれんか? オレもいろはと一緒に大切に想い続けるよ。その子のこと。 ひとりより、ふたりのほうがいいと思うわけさ。 だからさ、ね。 いろは。 オレにだけは本当のこと教えてくれないか? 恋蛍から十数年。このお話は海斗と陽妃の子供たちのお話です。 ※加筆修正中につき修正終わったところまでまで公開しています。
ホテル・ラ・ソルーナ

総文字数/160,121

ファンタジー23ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ようこそ、ホテル・ラ・ソルーナへ。 依頼者様がお部屋にてお待ちです。 さあ、後悔と愛をもう一度だけ伝えるための最期の時間を、お過ごしください。 月と太陽が重なり、街が闇に隠れる新月の夜にだけ、死者と再会できるというホテル・ラ・ソルーナ。そこに辿り着けるのは自ら命を絶った死者だけ。死者はたった一度だけ、残された者に自死した理由を伝えるために、そして、死を許してもらうために、再会の招待状を送ることができるという。 幼いふたりの愛娘と最愛の妻を残して自死した消防士。小学生の頃から一緒に甲子園を夢みて来た親友を残し、病を苦に自死した高校球児。愛してしまった不倫相手に秘密を残したまま、夫のモラハラを苦に自死を選択してしまった主婦。そして、愛する者の為に特攻隊を志願し、命を落とした17歳の青年。 一通の招待状が結ぶたった8時間だけの死者と生者の再会。遺書さえ残さず自ら命を絶った理由と、死者の本心、真実を知った生者の心にどんな明かりが灯るのか。きっと、大切なあの人に今すぐ会いたくなる感動の物語たち。
恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

総文字数/142,898

恋愛(純愛)242ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
恋蛍 ~クリアブルーの風に吹かれて~ 【side story】 陽妃が与那星島を出てから10年間の恋のお話です。 本編を読んでから読んでいただけたら幸いです。 きみの見ている風景には何がありますか どんな色の空が広がって、どんな風が吹いていますか そこには誰がいますか あたしの見ている風景 そこにはいつも クリアブルー色の風が吹いていました そこにはいつだって あの人がいました

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop