フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ねえ、ハル」


「何?」


「聞いてもいい?」


ひと呼吸があって、返事があった。


「ダメ。何も聞かないで」


しかも、予想通りの返事が。


可笑しくなって、つい吹き出してしまった。


「そう言うと思ってたわ。わざと聞いてみたの」


「年下をからかったの? 悪女だね」


そうだ。


私は悪女だ。


婚約者に捨てられた日に、謎だらけの年下の男と一緒に寄り添うように、ソファーにもたれている。


そして、満天の冬の星座を眺めたりなんかしているのだ。


婚約指輪を祀りながら。


「ねえ、ハル。あなたはどこから来たの?」


「答えたくない」


「なら、答えなくていいわ。じゃあ、苗字は?」


「言いたくない。ぼくは“ハル”」


何を聞いても「答えたくない」「言いたくない」そればかりが返って来た。


結局、ハル自身の情報を手に入れる事は出来なかった。


だけど、ハルの隣はなぜかとても居心地がいい。


気付けば、私はハルの肩に寄りかかっていた。


「ねえ、ハル」


「また質問? 懲りない人だね」


「あなたはいつか、ここを出て行くの?」


そして、ハルも私に寄りかかった。


「……答えられない」


どこまでも正直な子だと思った。


ハルは本当の事ばかり言う子だった。


むやみやたらに、曖昧な返事はしなかった。


絶対に。


「分からないから、今は答えられない」


でも、きっと、ハルはいつか居なくなるのだろうと思った。
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