フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ふうん。これだと、三十万弱、ってところかな」


ハルが身を乗り出して、鑑定士のような目で婚約指輪をじろじろと眺める。


「ティファニー、か。ありきたりだね。全然分かってないなあ」


「何。ハル、ブランドに詳しいの?」


まあ、と呟きながら、ふむふむとハルは婚約指輪を眺める。


「このデザイン、東子さんには全然似合わない」


今度は、深く慈しむように目を細めて。


「憐れだね」


「そうね。自分でもそう思うの」


実の親には捨てられ、引き取ってくれた親が注いでくれる愛はもう一人の「東子」に向けられたもので。


婚約者には捨てられ、信頼していた同僚には裏切られ。


私は、なんて憐れなのだろう。


悲劇のヒロインより、憐れだ。


クスクス、ハルが可笑しそうに笑った。


「笑ってしまうほど憐れかしら?」


つられたように笑うと「憐れだね」と言いながら、でも、ハルはふるふると首を振った。


「でも、東子さんが、じゃないよ。ぼくが憐れんでいるのは、そのリングを外されてしまった男だ」


捨てられた私ではなく、私を捨てた慎二が憐れだと?


「よく、意味が分からないんだけれど」


きょとんとする私を見て、ハルはやわらかな笑みを浮かべる。


「こんな美人を捨てる人間の気が知れないな。彼には天罰が下るよ」


エキゾチックな顔をしてさらりと「天罰」なんて言われると、現実になる気がして少し怖くなった。


ハルが異様なまでに執着を見せる「現実」に。


「東子さんみたいな美人、ぼくなら絶対に離さないのに」


「年下に慰められてもね」


軽くあしらうと、


「小難しい年頃なのかな」


そう言って、ハルは苦笑いをしてソファーにどさりともたれかかった。


ハルから、同じソープの香りがする。
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