フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「何……離して」


「違うんだ、東子」


息ができなかった。


慎二の目は血走っていて、物々しさに満ちていた。


必死に、何かを訴えているような目だった。


「俺、本当は」


「慎二?」


「東子……違うんだよ、本当はっ」


腕がギリギリと痛むほど強い力で、慎二が掴みかかって来る。


「痛い……ちょっと、慎二」


「東子さん!」


その腕をほどいて私の腕を引っ張ったのは、


「何してるの。はぐれないで」


ハルだった。


「ハル……」


「この人は?」


ぐい、と私を引っ張りながら、ハルはエキゾチックな目で慎二を見つめる。


「誰?」


まるで舐めるように、下から上へ、じろじろ。


「あ……昨日、話したでしょ」


ふうん、とハルは鼻を鳴らし、


「ああ、ティファニーか」


と納得したように頷いて、こんにちは、と慎二に軽く会釈をした。


「はあ、どうも」


慎二が私を見つめて来る。


慎二の言いたい事は、なんとなく予想がついた。


「誰? 東子に弟なんていないよな」


案の定の事を、慎二が聞いて来た。


「慎二には関係ない事だわ、もう」


恋人でも、婚約者でも、友達でも何でもないのだから。
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